致知格物:『大學』を識る

大學

 

『大学』は孔子の門人 曾子の作(?)朱子の顕彰によって有名になった。

「初學入德の門」として「四書」(『論語』『大学』『中庸』『孟子』の四つの書物)の中でまず第一に學ぶべきもの。

元々、『五經』の中の一つとして傳わって來た『禮記』四十九篇の中に編入された二篇であった。

『大学』は初學の者が道德へと入ってゆく爲の入門書である。夏・殷・周三代の古人の學問がどのような順序で行われたかが覗える。そして『論語』と『孟子』とが此の篇に続いて學ばれる。

●三綱領 『明明德』『新民』『止至善』

●八條目 『格物』『致知』『誠意』『正心』『脩身』『斉家』『治國』『平天下』

 

■『修己治人』の敎え

 「己れ自身を修める」道德説

 「人を治める」民衆統治の政治説とを兼ねた敎説が儒敎だと謂う事。

・大学敎育の三つの中心目標

 「明德を明らかにする」「民を親しましむる」「至善に止まる」

 明明德:輝かしい德を學んで、其れを一層輝かせてゆく。

 大学の道は、明德を明らかにする在り、民を親しましむるに在り、至善に止まるに在り。→「修身」「誠身」「正身」「正心」「誠意」

 

・知を到むるは物に格(至)る

 知能を推し極めて明晰にするには、物事について善惡を確かめる事だ。物事の善惡が確かめられてこそ、初めて知能(道德的判断)が推し極められて明晰になる。知能が推し極められて明晰になってこそ、初めて意念(おもい)が誠實になる。

 我が身をよく修める事を根本とする。此の根本を知り抜いている事を知識の極みと謂う。

→『物が格る』=万事万物の表も裏も精緻も粗大も全て隅々まで極め尽くされ、更に自分の心の完全な本質と偉大な働きまでもがすっかり明白になる。

→『知の至り』=知識が十分に推し決められた。

 

 自分の意念(おもい)を誠實にする=自分で自分を誤魔化さない。内なる己れ自身(意念)を慎んで修める。

 

 内に德ができると人の身体も其の潤いを受ける。心が公明正大であると肉体も邑楽かになる。

 

 自ら反省して修養する。内に省みて恐れかしこむ。氣高く禮儀正しい有様。

 

 人の臣として敬老慎の德に止まって其れを標準とし、人の子として孝行の德に止まって其れを標準とし、人の父としては慈愛の德に止まって其れを標準として都の人々との交際では信義の德に止まって其れを標準とする。こうして意念を誠實なものnしてゆくのだ。

 

 我が身をよく修めるには、まず自分の心を正す事だ。家を和合させる爲には、まず我が身を良く修める事だ。

 

「絜矩の道」(けっくのみち):一定の規準をとって廣い世界を推し量る方法。人を思いやる恕の德 「矩を絜(と)る」:身近で確実なものを規準とする意味がある。

 

 德が根本であって財物は末端なのである。財物を得る利益は本當ではなく、道義を守る事こそ本當の利益だ。

 

 人間は初めて此の世界生み出さた其の當初から、すでに誰もが平等に、仁・義・禮・智といった本性を与えられていた。〔性は善成り〕

 

■知を致すは物に格るに在り

 一般的な知識を十分に押し廣める(到知)爲には、世界の事物について其々に内在する理を極め尽くす(格物)べきである。

 朱子は「格物は窮理「理を窮める)」と同意である。万事万物についての窮理の工夫が明明德へと続く第一歩であった。

→自らの明德を明らかにする。『物に格り』『知を致し』『意に誠にし』『心を正し』『身を脩める』→格物致知は至善の境地をまず知る。

 

 天の明命:輝かしい天命として各人に分け与えられた個人の德性。

 

朱子の哲学では

 人間を含む万物全てが理と氣によって成り立っている。氣は物質性を持って万物の個別的な差異性を形成するが、其の差異性を確認して意味づけるのは、其々の個別の事物に内在する理の働きによってである。理は物質性を持たないでいて個物其々の特色を意味づける。理は心の中心にある「本然の性」としして純粋な最高善となる。現実的んは、其の純粋性は物質的な氣によって蔽われ、情欲が表れて善惡が混じり合う事になる。

 

「窮理」が必要なのは、氣による蔽いを取り除いて「本然の性」を發揮する(明明德)爲で有るが、其れには廣く事物についての個別の理を探求する事が必要だとした。

 

「荀(まこと)に日に新たにせば、日日に新たに、又た日に新たなり」(まことに一日新鮮になり、日々に新しくなって、更にまた日毎に新しくなれ)

 

「切るが如く磋くが如く、琢つが如く磨るが如し」=切磋琢磨

 

「天運循環」:四季の推移にみられるように自然の運行を循環とみるのは、一般的であったが更に其の法則性を人間世界にも廣げて政治の興廃歴史の転變も其の大きな自然法則のもとにあると考えられていた。

 

 古えの明德を天下に明らかにせんと欲する者は先ず其の國を治む。其の國を治めんと欲する者は先ず其の家を斉う。其の家を斉えんと欲する者は先ずその身を脩(修)む。其の身を脩めんと欲する者は先ず其の心を正す。其の心を正さんと欲する者は先ず其の意を誠にす。其の意を誠にせんと欲する者は先ずその知を到む。知を到むるは物に格(至)るに在り。物格りて后知至(きわ)まる。知至まりて后意誠なり。意誠にして后心正し。心正しくして后身脩まる。身脩まりて后家斉う。家斉いて后國治まる。國治まりて后天下平らかなり。